※男男です。でも恋愛にはしない、今のところは。するときはちゃんと事前にお知らせします。
※一部の描写については一応ちょっとは調べながら書いていますが、基本は「まあメトロシティだしな」で許したってください。
※梟とネジマキ鳥シリーズの作品です。1話目ぐらいは読んでおくと状況が分かりやすいかもしれません。
海辺に、青年がいた。いつもより妙に視点が高くて、違和感がある。ふと足元を見ると、自分の足で立っている。
以前から当たり前にそうだったかのように、砂浜を踏みしめながら波打ち際を目指す。不思議とバランスを崩すこともない。
そうやって波打ち際にたどり着いた。足に当たる水が冷たいな。チャプチャプ、足で海水と戯れた。
「ねえーー」
そう言いながら、青年は振り向いた。海辺には自分一人で、誰もいない。気が遠くなるほどに静かな海辺であった。
ーーと思ったところで、青年は目が覚めた。まあそういう夢を見ることもあるか。別に悲しいとかそういう感情はわかなかった。青年は、誰かと一緒に、海に行きたくなった。
青年の通う大学は今は夏休みで、研究もしばらくはそんなに忙しくない。いつもよりちょっと遅めに朝ごはんーーもはやブランチーーを食べ、スマホの通知を確認すると、なんと珍しくエドのほうからチャットが送られていた。
「なあ、この辺になんか面白いとことかあるか?」
面白いところはたくさんあるけれど……そうだな、せっかくだし。青年はちょっと迷ってから返事を送った。
「海、どうですか」
しばらくして、エドから返事が返ってきた。
「海?」
「はい、海です」
「でもよ、メトロシティの海なんかくせえんじゃねえのか」
エドはどうやらメインストリートからほど近い港のエリアを連想しているらしい。
「このあたりに穴場のビーチがあるんですよ」
青年は位置情報を送った。
「悪かねーな」
「じゃあバス停あたりで待ち合わせにしましょう」
エドからは「了解」のスタンプが送られてきた。
青年は、バスに揺られて郊外の海辺までやってきた。ビーチを覗くと、人気観光地ほどではないがぽつぽつと人影がある。バス停近くでしばらく待っていると、エドがやってきた。
「あ、エドさん」
「さっさと行くか」
「海とかあんま自分から行かねえなあ」
エドは海辺を見ながら言った。
「僕もです」
「じゃあなんで呼んだんだよ」
エドはちょっとムッとした顔をしている。
「まあまあ」
しばらく歩いて2人は用具レンタル店のところまでやってきた。
「ちょっと借りたいものがあるんです。ここでちょっと待っててください」
「ん」
「実は乗ったことないんですよねこれ」
しばらくして現れた青年は、ビーチ用の車いすに乗り換えていた。
「それで砂浜も走れるってわけか」
「そういうことです!いいでしょ」
「よいしょ、わかってたけど重いですね」
青年は車輪を漕いでいるが、砂に沈んでなかなか前に進まない。
「これほんとに進んでんのか?」
「ちょっとは進んでますよ」
うっすら轍が残っているのを見ると、確かに少しは進んでいるか、とエドは思った。
「ま、別に逃げるもんでもねえしな」
「そういうことです」
砂浜を進む感触が自分の手に伝わってくるのを、青年はじっくり楽しんでいる。夢の中で踏みしめた砂の感覚を思い出しながら。
「何を感慨深そうな顔してんだよ」
「へへへ、内緒です」
「で、お前はどこに行こうとしてんだ」
「ちょっと、波打ち際に」
「濡れるぞ」
「短パン履いて来たので大丈夫です!靴も預けてますし」
青年は波打ち際を目指してせっせと車輪を漕いでいる。ここで「押してやろうか」……なんて言い出すのは無粋なのはわかっているので、エドはその様子を見ていた。エドがふと足元を見ると、貝殻なんかが落ちているのが見えた。手頃なサイズの巻き貝を見つけて、エドはひょいと拾い上げた。
「やるよ」
そういいながらエドはその貝殻を青年の膝の上に置いた。
「どうしたんですか急に」
「なんとなく」
「耳に当てたらいい音が聞こえるみたいなの、風情がありますよね。お土産にしよう!」
貝殻を手に取ると、エドに返した。
「持っててください」
「オレが持つのかよ」
「カバン預けて来ちゃいましたし」
「しゃあねえな……」
エドは貝殻を受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
しばらく漕ぎ続けて、青年はやっと波打ち際にたどり着いた。波の音が心地よい。
「すみません、足がちょっと水につかるあたりまで押してもらえますか」
「漕ぐのはもういいのか」
「疲れちゃいました」
「ふーん、そうかよ」
そういいながら、エドは靴を脱いで、砂浜に置き、ズボンのすそをまくった。
エドは、青年が乗っている車いすをそっと押す。少し進むと、青年の足に水が触れた。
「冷てぇな」
「そうですね、でも思ったより温かいかも」
「その……感覚とかあるんだな」
「温度ぐらいはわかりますよ」
「そうか」
本物の海水は、ちょっと温かいのか。夢の中とは違う。
エドは車いすを押さえながら、青年の様子を見ている。
「なんだよまたしみじみ~みたいな顔して」
「初めてですから」
「マジかよ」
「こんな車いすを貸してくれるところなんてつい最近までなかったですし……」
エドは足で水をチャパチャパさせている。
「来れてよかったな」
「なんか終わらせる雰囲気にしてません?」
「まだ何かやんのか?」
「もうちょっと何か見て回りましょうよ、せっかくの遠出ですよ」
いつもの車いすに乗り換えた青年は、エドを引き連れてビーチの周辺をうろうろしていた。
「クソ暑ィな」
「ですねえ」
青年はカバンから取り出したタオルで汗を拭いている。
「冷たい系の食い物とかねえのか?」
そんな話をしていたら、メロディを流しながら走る小さなトラックがビーチの駐車場に入っていくのが見えた。
「あれアイスクリームトラックだろ」
「ほんとだ!」
青年は全速力で車いすを漕いで駐車場に走っていった。
「さっき疲れたとか言ってたんじゃねえのか?」
「砂浜と比べたらめっちゃ軽いです!」
「おもりを外した格闘家かなんかかよ」
「まさしくそうかも!」
「待てよ!!」
エドは青年の後を走って追いかけた。
エドがトラックのところにたどり着くと、青年が苦笑しながら待っていた。
「注文は聞いてもらえたんですけど、お金を渡すのには手が届きませんでした」
「オイオイ……じゃあ走らなくてもよかったじゃねえか」
トラックのカウンターが高いところにあり、車いすの青年では少し手が届かないのだ。エドは青年からアイス1つ分の小銭を受け取った。
「おっさん」
エドはトラックの店主を呼び止める。ひげの生えた陽気そうな男性だ。
「そいつのツレだ。チョコミントアイス1つ」
「チョコアイスと合わせて2つで600ゼニーだよ」
エドは代金を手渡した。カップにたっぷりのアイスクリームを掬い取り、店主はアイスとスプーンを2つずつエドに手渡した。
「ありがとな」
駐車場の隅に屋根があるところがあったので、2人は軒下に入ってアイスを食べ始める。
「ん、うまい」
「エドさん」
「なんだ」
「チョコミント好きなんですか?」
「悪いか」
エドはチョコミントアイスを味わっている。
「歯磨き粉みたいな味とかっていう」
「それ言ったら死ぬからな」
「はは、そしたら僕死んじゃいますね!」
エドは青年の額を軽く小突く。
「いて」
「冗談だよ」
青年はニコニコ笑っていた。
「今何時だろう」
バス停あたりまで戻ってきた2人。青年が時計を見ると、夕方5時を指していた。
「5時か。日が落ちるのがゆっくりだから気づかないですね」
「そうだな」
「今日はありがとうございました」
「おう、こちらこそ。悪くなかったぜ」
「ところで、なんで今日はエドさんのほうから?珍しいですね」
「なんとなく。そういうお前こそ、なんでわざわざ海を選んだんだよ」
「なんとなくです」
「真似すんなよ」
「それじゃあ、また今度!」
「おい、忘れ物」
エドは青年を呼び止めた。
「何ですか?」
「これ」
エドは上着のポケットから大きい巻貝の貝殻を取り出し、青年の膝に乗せた。
「さっき拾ってた貝殻ですね」
「こういうの集める趣味じゃねえし、お前が持ってろよ」
「……ありがとうございます」
青年は膝の上の貝殻を手に取って眺める。
「うわ、めちゃくちゃ嬉しそうじゃねえか、何なんだよ」
「大切にしますね」
「まあ嬉しいならいいか」
そんなこんなで、2人はバスを待っていたのであった。
※一部の描写については一応ちょっとは調べながら書いていますが、基本は「まあメトロシティだしな」で許したってください。
※梟とネジマキ鳥シリーズの作品です。1話目ぐらいは読んでおくと状況が分かりやすいかもしれません。
海辺に、青年がいた。いつもより妙に視点が高くて、違和感がある。ふと足元を見ると、自分の足で立っている。
以前から当たり前にそうだったかのように、砂浜を踏みしめながら波打ち際を目指す。不思議とバランスを崩すこともない。
そうやって波打ち際にたどり着いた。足に当たる水が冷たいな。チャプチャプ、足で海水と戯れた。
「ねえーー」
そう言いながら、青年は振り向いた。海辺には自分一人で、誰もいない。気が遠くなるほどに静かな海辺であった。
ーーと思ったところで、青年は目が覚めた。まあそういう夢を見ることもあるか。別に悲しいとかそういう感情はわかなかった。青年は、誰かと一緒に、海に行きたくなった。
青年の通う大学は今は夏休みで、研究もしばらくはそんなに忙しくない。いつもよりちょっと遅めに朝ごはんーーもはやブランチーーを食べ、スマホの通知を確認すると、なんと珍しくエドのほうからチャットが送られていた。
「なあ、この辺になんか面白いとことかあるか?」
面白いところはたくさんあるけれど……そうだな、せっかくだし。青年はちょっと迷ってから返事を送った。
「海、どうですか」
しばらくして、エドから返事が返ってきた。
「海?」
「はい、海です」
「でもよ、メトロシティの海なんかくせえんじゃねえのか」
エドはどうやらメインストリートからほど近い港のエリアを連想しているらしい。
「このあたりに穴場のビーチがあるんですよ」
青年は位置情報を送った。
「悪かねーな」
「じゃあバス停あたりで待ち合わせにしましょう」
エドからは「了解」のスタンプが送られてきた。
青年は、バスに揺られて郊外の海辺までやってきた。ビーチを覗くと、人気観光地ほどではないがぽつぽつと人影がある。バス停近くでしばらく待っていると、エドがやってきた。
「あ、エドさん」
「さっさと行くか」
「海とかあんま自分から行かねえなあ」
エドは海辺を見ながら言った。
「僕もです」
「じゃあなんで呼んだんだよ」
エドはちょっとムッとした顔をしている。
「まあまあ」
しばらく歩いて2人は用具レンタル店のところまでやってきた。
「ちょっと借りたいものがあるんです。ここでちょっと待っててください」
「ん」
「実は乗ったことないんですよねこれ」
しばらくして現れた青年は、ビーチ用の車いすに乗り換えていた。
「それで砂浜も走れるってわけか」
「そういうことです!いいでしょ」
「よいしょ、わかってたけど重いですね」
青年は車輪を漕いでいるが、砂に沈んでなかなか前に進まない。
「これほんとに進んでんのか?」
「ちょっとは進んでますよ」
うっすら轍が残っているのを見ると、確かに少しは進んでいるか、とエドは思った。
「ま、別に逃げるもんでもねえしな」
「そういうことです」
砂浜を進む感触が自分の手に伝わってくるのを、青年はじっくり楽しんでいる。夢の中で踏みしめた砂の感覚を思い出しながら。
「何を感慨深そうな顔してんだよ」
「へへへ、内緒です」
「で、お前はどこに行こうとしてんだ」
「ちょっと、波打ち際に」
「濡れるぞ」
「短パン履いて来たので大丈夫です!靴も預けてますし」
青年は波打ち際を目指してせっせと車輪を漕いでいる。ここで「押してやろうか」……なんて言い出すのは無粋なのはわかっているので、エドはその様子を見ていた。エドがふと足元を見ると、貝殻なんかが落ちているのが見えた。手頃なサイズの巻き貝を見つけて、エドはひょいと拾い上げた。
「やるよ」
そういいながらエドはその貝殻を青年の膝の上に置いた。
「どうしたんですか急に」
「なんとなく」
「耳に当てたらいい音が聞こえるみたいなの、風情がありますよね。お土産にしよう!」
貝殻を手に取ると、エドに返した。
「持っててください」
「オレが持つのかよ」
「カバン預けて来ちゃいましたし」
「しゃあねえな……」
エドは貝殻を受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
しばらく漕ぎ続けて、青年はやっと波打ち際にたどり着いた。波の音が心地よい。
「すみません、足がちょっと水につかるあたりまで押してもらえますか」
「漕ぐのはもういいのか」
「疲れちゃいました」
「ふーん、そうかよ」
そういいながら、エドは靴を脱いで、砂浜に置き、ズボンのすそをまくった。
エドは、青年が乗っている車いすをそっと押す。少し進むと、青年の足に水が触れた。
「冷てぇな」
「そうですね、でも思ったより温かいかも」
「その……感覚とかあるんだな」
「温度ぐらいはわかりますよ」
「そうか」
本物の海水は、ちょっと温かいのか。夢の中とは違う。
エドは車いすを押さえながら、青年の様子を見ている。
「なんだよまたしみじみ~みたいな顔して」
「初めてですから」
「マジかよ」
「こんな車いすを貸してくれるところなんてつい最近までなかったですし……」
エドは足で水をチャパチャパさせている。
「来れてよかったな」
「なんか終わらせる雰囲気にしてません?」
「まだ何かやんのか?」
「もうちょっと何か見て回りましょうよ、せっかくの遠出ですよ」
いつもの車いすに乗り換えた青年は、エドを引き連れてビーチの周辺をうろうろしていた。
「クソ暑ィな」
「ですねえ」
青年はカバンから取り出したタオルで汗を拭いている。
「冷たい系の食い物とかねえのか?」
そんな話をしていたら、メロディを流しながら走る小さなトラックがビーチの駐車場に入っていくのが見えた。
「あれアイスクリームトラックだろ」
「ほんとだ!」
青年は全速力で車いすを漕いで駐車場に走っていった。
「さっき疲れたとか言ってたんじゃねえのか?」
「砂浜と比べたらめっちゃ軽いです!」
「おもりを外した格闘家かなんかかよ」
「まさしくそうかも!」
「待てよ!!」
エドは青年の後を走って追いかけた。
エドがトラックのところにたどり着くと、青年が苦笑しながら待っていた。
「注文は聞いてもらえたんですけど、お金を渡すのには手が届きませんでした」
「オイオイ……じゃあ走らなくてもよかったじゃねえか」
トラックのカウンターが高いところにあり、車いすの青年では少し手が届かないのだ。エドは青年からアイス1つ分の小銭を受け取った。
「おっさん」
エドはトラックの店主を呼び止める。ひげの生えた陽気そうな男性だ。
「そいつのツレだ。チョコミントアイス1つ」
「チョコアイスと合わせて2つで600ゼニーだよ」
エドは代金を手渡した。カップにたっぷりのアイスクリームを掬い取り、店主はアイスとスプーンを2つずつエドに手渡した。
「ありがとな」
駐車場の隅に屋根があるところがあったので、2人は軒下に入ってアイスを食べ始める。
「ん、うまい」
「エドさん」
「なんだ」
「チョコミント好きなんですか?」
「悪いか」
エドはチョコミントアイスを味わっている。
「歯磨き粉みたいな味とかっていう」
「それ言ったら死ぬからな」
「はは、そしたら僕死んじゃいますね!」
エドは青年の額を軽く小突く。
「いて」
「冗談だよ」
青年はニコニコ笑っていた。
「今何時だろう」
バス停あたりまで戻ってきた2人。青年が時計を見ると、夕方5時を指していた。
「5時か。日が落ちるのがゆっくりだから気づかないですね」
「そうだな」
「今日はありがとうございました」
「おう、こちらこそ。悪くなかったぜ」
「ところで、なんで今日はエドさんのほうから?珍しいですね」
「なんとなく。そういうお前こそ、なんでわざわざ海を選んだんだよ」
「なんとなくです」
「真似すんなよ」
「それじゃあ、また今度!」
「おい、忘れ物」
エドは青年を呼び止めた。
「何ですか?」
「これ」
エドは上着のポケットから大きい巻貝の貝殻を取り出し、青年の膝に乗せた。
「さっき拾ってた貝殻ですね」
「こういうの集める趣味じゃねえし、お前が持ってろよ」
「……ありがとうございます」
青年は膝の上の貝殻を手に取って眺める。
「うわ、めちゃくちゃ嬉しそうじゃねえか、何なんだよ」
「大切にしますね」
「まあ嬉しいならいいか」
そんなこんなで、2人はバスを待っていたのであった。