深夜の地下鉄の駅。ホームでは人々が殴り合いを繰り広げている。
「師匠~!」
そこに、地上からこの場にはそぐわない少年が駆け込んできた。スポーツバッグを持って。
その姿を見るなり、エドは大きなため息をついた。
「帰れよ。あと勝手に師匠にするな」
「ボクシングやりに来たんだけど!」
「ハア……」
エドはしょうがないというように、トレーニングの準備を始めた。
「気が済んだら帰れよ」
準備運動ののち、二人は軽くスパーリングをする。ひたすら無言で拳を交わしていた。
エドがこの少年と出会ったのは2か月ほど前のことである。地下鉄でシャドルーの残党に追われている時に、偶然居合わせたのである。(なぜあんな深夜に地下鉄に乗っていたのかは置いておいて)
こちらが口を滑らせて「手本を見せてやる」なんて言ったものだから、少年がその後もこちらのことを「師匠」と呼びながら「お手本見せてくれるんだよね!」とやたらついてくるので、しょうがなく相手をしてやったりなどしている。
少年の格闘の腕前はそこそこ。なんでも、昼間のメトロシティの街角で、自分より大柄な人を降参させたこともあるとかなんとか言っている。本当かは知らないが。
それはそれとして夜の地下鉄は子どもには危険だ。「帰れ」とたびたび言っているのだが、それでも勝手についてくるのでほったらかしにしている。
問題は年齢である。この少年、自分と大体同い年なのだ。小学6年生とか言っていたか。
話を聞く限り、彼はそれなりに不自由のない生活を送っているようだ。両親もいて、学校にも通っているらしい。絶妙に居心地が悪い感じがする。
そして、数十分のスパーリングの後、2人はホームのベンチに座っていた。
「いっぱい、動いた……。さて、一休み」
「……いや、帰れって言ったよな」
「こんな、ヘロヘロで、帰れないし」
「テメェはよ、昼間学校行ってよ、勉強とかしてんだろ。オレにはよく分かんねェけどよ」
「うん」
「放課後はダチと集まってゲームでもしてんだろ」
「それはしてないけど」
「何?」
エドは、小中学生は皆そうするのだと当たり前のように想像していたので、ちょっと拍子抜けしたような顔をした。
「みんなFooTubeのよくわかんない配信者とかに夢中で」
「……あれか、動画載せるとこ」
「僕はストリートファイトとかカードゲームの話がしたいんだけど……学校の皆とは適当に話合わせてるんだ」
「はあ……」
やれやれという顔をしながら、エドは続ける。
「まあその、ファイトしたいのを否定はしないけどよ、他になんかあるだろ、昼間に開いてる警備会社の訓練所みたいなとことか。ちゃんとしたとこでやれよ。ああいうとこならダチもできんじゃねえのか」
「ルーク教官も、訓練生のみんなも、やさしくていい人だよ」
「行ったことあんのかよ。じゃあなおのことそっちでいいじゃねェか」
「でも僕は師匠のとこが一番楽しいんだ……えーと、友達みたいで」
「は?」
コイツのことを友達認定なんかしたことない、とエドは思った。まとわりついてきてうっとうしいから毎日適当にあしらっていたのだが。
「ぶつくさ言うけどスパーにも付き合ってくれるし、カードゲームも一緒にやってくれるから」
「おい」
「僕は学校ではみんなに合わせてばっかりだけど、師匠はいつも「これがオレだ!」って感じでかっこいいし!」
「なっ!?」
「きゅ、急にめちゃくちゃ褒めてきて気持ち悪ィなテメェ……」
「でも本当のことだし」
居心地の悪さのあまり、エドは若干ばつの悪い感じの顔をしながら後頭部を掻く。
「はあ……しょうがねえ、ダチみたいとかじゃなくてダチでいいだろ」
「やったー!」
「勝手にいなくなってもグズグズ泣くんじゃねえぞ。オレは忙しいからな」
「はーい」
少年はニコニコうれしそうな顔をしていた。まあこういう関係性も悪くはないか。
そして少年は、おもむろにスポーツバッグからカードケースを取り出す。
「で師匠!昨日新しいデッキ作ったから見てほしいんだけど」
「だから今日は帰れ!」
「師匠~!」
そこに、地上からこの場にはそぐわない少年が駆け込んできた。スポーツバッグを持って。
その姿を見るなり、エドは大きなため息をついた。
「帰れよ。あと勝手に師匠にするな」
「ボクシングやりに来たんだけど!」
「ハア……」
エドはしょうがないというように、トレーニングの準備を始めた。
「気が済んだら帰れよ」
準備運動ののち、二人は軽くスパーリングをする。ひたすら無言で拳を交わしていた。
エドがこの少年と出会ったのは2か月ほど前のことである。地下鉄でシャドルーの残党に追われている時に、偶然居合わせたのである。(なぜあんな深夜に地下鉄に乗っていたのかは置いておいて)
こちらが口を滑らせて「手本を見せてやる」なんて言ったものだから、少年がその後もこちらのことを「師匠」と呼びながら「お手本見せてくれるんだよね!」とやたらついてくるので、しょうがなく相手をしてやったりなどしている。
少年の格闘の腕前はそこそこ。なんでも、昼間のメトロシティの街角で、自分より大柄な人を降参させたこともあるとかなんとか言っている。本当かは知らないが。
それはそれとして夜の地下鉄は子どもには危険だ。「帰れ」とたびたび言っているのだが、それでも勝手についてくるのでほったらかしにしている。
問題は年齢である。この少年、自分と大体同い年なのだ。小学6年生とか言っていたか。
話を聞く限り、彼はそれなりに不自由のない生活を送っているようだ。両親もいて、学校にも通っているらしい。絶妙に居心地が悪い感じがする。
そして、数十分のスパーリングの後、2人はホームのベンチに座っていた。
「いっぱい、動いた……。さて、一休み」
「……いや、帰れって言ったよな」
「こんな、ヘロヘロで、帰れないし」
「テメェはよ、昼間学校行ってよ、勉強とかしてんだろ。オレにはよく分かんねェけどよ」
「うん」
「放課後はダチと集まってゲームでもしてんだろ」
「それはしてないけど」
「何?」
エドは、小中学生は皆そうするのだと当たり前のように想像していたので、ちょっと拍子抜けしたような顔をした。
「みんなFooTubeのよくわかんない配信者とかに夢中で」
「……あれか、動画載せるとこ」
「僕はストリートファイトとかカードゲームの話がしたいんだけど……学校の皆とは適当に話合わせてるんだ」
「はあ……」
やれやれという顔をしながら、エドは続ける。
「まあその、ファイトしたいのを否定はしないけどよ、他になんかあるだろ、昼間に開いてる警備会社の訓練所みたいなとことか。ちゃんとしたとこでやれよ。ああいうとこならダチもできんじゃねえのか」
「ルーク教官も、訓練生のみんなも、やさしくていい人だよ」
「行ったことあんのかよ。じゃあなおのことそっちでいいじゃねェか」
「でも僕は師匠のとこが一番楽しいんだ……えーと、友達みたいで」
「は?」
コイツのことを友達認定なんかしたことない、とエドは思った。まとわりついてきてうっとうしいから毎日適当にあしらっていたのだが。
「ぶつくさ言うけどスパーにも付き合ってくれるし、カードゲームも一緒にやってくれるから」
「おい」
「僕は学校ではみんなに合わせてばっかりだけど、師匠はいつも「これがオレだ!」って感じでかっこいいし!」
「なっ!?」
「きゅ、急にめちゃくちゃ褒めてきて気持ち悪ィなテメェ……」
「でも本当のことだし」
居心地の悪さのあまり、エドは若干ばつの悪い感じの顔をしながら後頭部を掻く。
「はあ……しょうがねえ、ダチみたいとかじゃなくてダチでいいだろ」
「やったー!」
「勝手にいなくなってもグズグズ泣くんじゃねえぞ。オレは忙しいからな」
「はーい」
少年はニコニコうれしそうな顔をしていた。まあこういう関係性も悪くはないか。
そして少年は、おもむろにスポーツバッグからカードケースを取り出す。
「で師匠!昨日新しいデッキ作ったから見てほしいんだけど」
「だから今日は帰れ!」