【小説】深夜にはじまる

あの日地下鉄にいたのは、車椅子の大学生だった。

2025-05-30 08:55:28
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梟とネジマキ鳥シリーズの作品です。
※男男です。でも恋愛にはしない、今のところは。するときはちゃんと事前にお知らせします。
※一部の描写については一応ちょっとは調べながら書いていますが、基本は「まあメトロシティだしな」で許したってください。













「あー……遅くなっちゃったな」
ここはメトロシティの地下鉄。ガラガラの車内には、どこかの駅から乗った青年が一人。荷物がたくさん詰まったリュックサック……をひっかけた車椅子に座っている。本を読もうと思い、リュックサックから本を取り出そうとしたところ、隣の車両から、誰かが走ってくる音がする。緊急事態だろうか?
「オラァ!!」
「ぐふぅッ!!」
気合いの入った大声が聞こえてきた。緊急停止ボタンでも押そうかと思いボタンを探す青年の目の前を、段ボールを被った男が吹っ飛んでいった。そしてその直後を追うように、ガタイの良い男が駆け込んでくる。男の視界に、車椅子の青年の姿が入った。
「おいテメェ」
「僕ですか」
「危ねえぞ。っつうかなんでこんな時間にこんな電車に乗ってんだ」
「え、えっとですね……」
青年は明らかに困惑している。
「……しゃあねえ、とっとと片づけるか」
男は後ろから飛んでくるもう一人の段ボールの男のパンチを最小限の動きで避けると、カウンターで吹っ飛ばした。
「おい、まだいるんだろ。かかってきやがれ」
すると、今まで現れた段ボールを被った男の比ではない巨大な男がのそりと起き上がった。大振りで殴りかかろうとするのを超人的な速度で避け、背後に回り込むと、次の瞬間には吹っ飛んでいた。まるで何かに釣り上げられたかのように。
「次、来たらぶっ殺すぞ、クソが」
段ボール頭の男を全員ねじ伏せた男は、捨て台詞を吐いた。

「おおー……」
「何のんきに見てんだよ」
「これが噂のストリートファイトってやつですか。僕あんまり見たことなくて」
「守ったとかじゃねえからな。今のはまあ……そう、ストリートファイトだと思っとけ」
「いやあ、巻き込まれたら危ないからストリートファイトを見物するのはやめとけ、ってよく言われるんですよ。」
まあそりゃそうか、この街でこんななりで暮らすのも楽じゃねえだろうな……と青年を見ながら男は思った。

「おい、どこで降りるんだ」
「まもなくビートスクエア、ビートスクエア駅です」
次の停車駅のアナウンスが流れた。それを聞いて青年が答える。
「ここです」
「はあ!?」
男は青年の車椅子のハンドルに手をかけた。
「テメェみたいなのがあんなとこ一人でいたらくたばっちまうぞ」
「はは、助かります。いつもだったら断るところなんですけど、今日はだいぶ疲れちゃってるので……」
「ただでさえクソみたいな寝覚めが悪くなるからな」

青年の道案内を聞きながら、男が車椅子を押して歩いていく。男はちらちら周囲を警戒している。
「僕大学生なんです。研究室で実験に夢中になってたら遅くなってしまって」
青年の口から出た「研究室」「実験」というワードを聞いて男はムッとした顔をする。
「いつもだったら大学からバスを乗り継いだら帰れるんですけど、遅すぎてバスも走ってなくて、悩んだ末に地下鉄に乗ったらアレだったもので……」
「……迎えとかは?」
「一人暮らしで……」
「……ったく、ちゃんと時計とか見とけよ」

「ここか?」
案内通りに進むと、シンプルなエレベーターが付いたアパートの前にたどり着いた。
「はい、ここまでありがとうございます」
青年はにこやかに答えた。
「またお礼とかさせてください。連絡先とか……交換できますかね」
男はかなり嫌そうな顔をしている。
「あ、ごめんなさい。休みの日に、フードトラックで一緒にご飯とかどうかなって思っただけで」
男はしばらく悩んだのち、スマホを取り出した。
「夜は忙しい。またお迎えなんかできねえからな?飯ぐらいなら……いけなくもねえか」
「いいんですか!これが僕の連絡先です……」
こうして2人はチャットアプリの連絡先を交換した。青年は男のアカウント名を確認した。
「エドさんって呼べばいいですか?」
「そうだな。それでいい」
男――エドは頷いた。
「……くだらねぇことで呼ぶなよ、いいな?」
「へへ、わかりました!」
「なんか調子狂うな……」
エドは自分の後頭部をわしゃわしゃしている。
「――んじゃ、オレ帰るから」
「はい!今日は本当にありがとうございました。おやすみなさい、エドさん」
エドはひらひらと手を振りながら、夜の闇に消えていった。それを見送った青年は、ちょっとワクワクした気持ちで自宅に帰って行く。

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