【小説】ただの気まぐれ

こないだ書いた夢小説(?)のエド視点バージョンです。まだアシメヘアじゃなくて、バイソンと行動を共にしていた頃の話。

2025-05-24 21:28:33
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「おいエド」
ちょっとした金稼ぎから帰って来たある日、エドはバイソンに呼ばれた。
「なんだよバイソン」
「名前ぐらいはちゃんと書けるようになっとけよ」
「は?なんで」
「俺が恥ずかしかったからだよ!」
なんでも、シャドルー四天王に入ったばかりの頃、四天王の中で自分だけ自分の名前がちゃんと書けなくて恥ずかしい思いをしたという。バイソンはスラム出身で、貧しいから学校にも行けなかったし、その後も拳ひとつでのし上がってきた身だから文字なんかほとんど書けなかったらしい。
「もし元シャドルーの連中に『こいつ字汚いな』って思われたらお前も嫌だろ」
「で、どうすんだよ。バイソンは字上手じゃねえんだろ?」
「あぁ!?」
そりゃキレるわな。いつものバイソン。
「学校に行ってみりゃいいんじゃねえか……まあ俺はガキの頃貧しかったから行ったことねえけど」
「ふーん。学校か。そんなに言うならちょっと行ってみるか」
(……まあオレの名前、たったの2文字だけどな)

「苗字がねえってのもめんどくせえから、苗字はとりあえず俺の苗字名乗っとけ。」
バイソンはそんなことを言っていた。まあ一理あると言えばあるか。エド・バイソンか……なんか気持ち悪いな。エドはそんなことを考えながら、裏通りの隠れ家を出て、近くの学校に歩いて向かう。
大半の生徒はバスに乗るらしい。学校に到着すると、バスから自分よりかなり小さな子どもがぞろぞろと降りてきた。居心地が悪いな、とエドは思った。

向こうから女が1人歩いてくる。身なりを見る限りおそらく教師だろう。エドを見るなり、こちらに手を振ってきた。
「あなたが転入生かしら。書類は貰っているわ」
「そうだけどよ、なんでオレがそうだってわかんだよ」
「なんとなくね」
「どう見ても大人みたいな奴がガキの学校に来るのが気持ち悪ぃと思わねえのか」
「私の生徒であることに見た目は関係ないわ」
「……」

クラスルームに向かう道中で、先生は学校をざっと案内していく。
「ここが職員室。困ったらいつでも来てね」
「ここが運動場ね。昼休みは皆ここで遊んでいるわ」
「ここがカフェテリアね。お昼はここで」……
そして最後に、クラスルームの扉の前にたどり着いた。
「ここがあなたのクラスルーム。カバン置き場はあっちよ」
案内を終えた先生は、クラスルームの中に入っていった。

「今日は転入生を紹介するわ。入ってちょうだい」
ホームルームを始めた先生が、クラスルームの外に出ているエドにアイコンタクトを取った。中に入ると、きょとんとした顔の子どもたちが見えた。やっぱ居心地悪。
「さあ、ご挨拶して」
一呼吸おいて、エドは
「……エド……バイソン」
と気恥ずかしい感じで名乗った。確かに苗字は必要だが、バイソン以外になかったのかよ。
「エドくん、よろしくね」
全然「見た目は関係ないわ~」じゃないじゃねえか。エドは先生をにらんだ。

窓際の席について、最初の授業は算数だった。まあ算数は……基本的なところは研究所にいたころにちょっと教わってたんだった。その時のことを思い出して嫌だな。
エドはぼんやり窓の外の空を見る。前から空を見るのは好きだ。研究所にいたときにはほとんど見られなかったからだろうか。なんとなく、あこがれがある。

昼休み。カフェテリアで昼食をとったエドは、暇つぶしに運動場に出た。日陰に座り込む。
はあ、バスケットボールか。あの中に混ざろうものなら、単純に体格的にフェアなゲームにならないであろうことは明白だし、もしサイコパワーが暴走したりしようものなら、このガキどもはとんでもないことになってしまうだろう。
「ねえ……」
エドの後ろから少女の声がした。エドに話しかけているのだろうか。
「遊ばないの?バスケットボールとか……」
「……別にいい」
エドは目も合わせずに答えた。
「背が高いし、きっとたくさん得点とれちゃうもんね」
「……」
オレのことなんかなんにも知らないくせに。エドは黙り込んだ。しばらくすると、話しかけてきた少女の気配は消えた。
「はあ……」
やっぱ学校なんか来るんじゃなかったな。つまんねえ。

次の朝もエドはしぶしぶ学校に向かい、教室に入った。なんだか距離を取られている気がするけれど……それで良いんだよ。オレのことをわかる奴なんて誰もいないんだから。

今日は読み書きの授業。そうだな、バイソンが言うように名前ぐらいは書けた方がいいよな。そう思いながらエドはノートに字を書き写してみる。
……ああ、オレの字、下手かもしれない。バイソンみたいに字の汚さで敗北するのは癪だし、ちゃんとやっておくか。


ある日の放課後、エドが荷物をカバンに片付けていると、少年がそろそろと近寄って来た。
「おっ、おい」
「何だよ」
少年は震えた声で続ける。
「う、裏に来いっ!話が、ある!」
「はあ?」
こんなの絶対ろくな話じゃないだろ。
「お、お前の父さんのこと、ばらすぞ!」
「何を言ってんだ」
「……マイク・バイソン」
いや、なんで知ってんだよ。オレがバイソンって名乗ったからか。しくったな……
「いいよ、聞いてやる」

裏口から、少年と共に学校のゴミ捨て場に出た。
「お前の父さん、対戦相手をいっぱい病院送りにしたボクサーだろ」
「そうだ」
アイツが褒められた男じゃないことは否定しない。
「きっと僕たちのことも病院送りにするんだ!」
「はあ……」
バカなことを言ってる。いかにもガキっぽいって感じ。
「そもそもお前……子どもじゃないだろ!」
「あ?」
「きっとそうだ!お前の父さんが学校をめちゃくちゃにするために送り込んだんだ!子どものふりしたバケモノは、で、出ていけ!!」


「は、あ……」
目の前には、倒れたゴミ箱、散乱したゴミ袋、そしてゴミ袋の上には、鼻血を垂らして服を血まみれにした少年。サイコパワーのかすかな残り香。
「オレが、やったのか……」

「なんてことするの、エド!」
逃げずに立ち尽くしていたら、先生たちが集まって来た。少年の母親も駆け付けたらしい。
「……」
「謝りなさい」
先生は真剣な顔で、エドの顔を覗き込んだ。
ずっと我慢していたのに。精神がぐちゃぐちゃだ。どんどん悪い考えが脳裏を支配する。今にも、本当の自分を手放してしまいそうなほどに。
「……こ、コイツが先に!」
「エドくん、落ち着いて」
なだめようとしているらしい声も、あまり聞こえない。弱者に用はない……そんなわけない!
「オレは好きでこんな身体になったんじゃねえ!!」
怒りに任せて、嫌な考えを振り払うように、力任せに先生の胸倉をつかんで持ち上げていた。先生は思ったより軽い。このまま地面に叩きつけたらどうなるんだろう……いや、オレは何を、
「おい」
聞き慣れた声がした。バイソンだ。
「こんなところで暴力をふるうんじゃねえ。面倒なことになるだろうが……って、もうなってるな」
「バイソン!!アイツが!!」
少年を指さした。少年はほかの先生に抱えられながら、救急車に運ばれていくところだった。少年の目は、ほら言わんこっちゃない、というかのような目を……ああ、自分でも何を言っているのかよくわからなくなってきた。
「もういい。帰るぞ」
「バイソン!!」
エドは、バイソンにヒョイと首根っこをつかまれて、その場を後にした。

「……バイソン」
シャワーを浴びたエドは、ボロい冷蔵庫を物色しながら言う。
「落ち着いたか」
もしバイソンに強引にでもあの場から引き離されていなければ、本当にあの少年の言う通り、学校をめちゃくちゃにしていたかもしれない。
「もう、居れなくなっちまったな」
「よく考えたら、テメェの名前は2文字こっきりだったな」
「なんだよ、今さら気づいたのか」

あれっきり学校には行かなくなった。しばらくしたある日、2人で荷造りをし、街を出る準備をした。街でも噂になっているかもしれない。
「すまねえ、オレのせいで」
「どうせ遅かれ早かれここは去るつもりだったからよ」
「……あ」
「何だ」
「バイソンが買ったアレ……どっかに落としてきちまったかも」
ビリヤードの球のキーホルダー。いつかエドがバイソンとビリヤードバーに行った時に、バイソンが買ってくれたものだ。
「あんな安物、そんなに大事なのか」
「……ちょっと気に入ってたんだよアレ」
「そうだったかぁ……?まあいい、どうせまたどっかで似たようなの買えるだろ」
ふとエドが顔を上げると、少女が路地裏に入ってきているのが見えた。あ、目が合った。スタスタと歩いて、少女に近づく。あんな流血沙汰起こしたオレのことを怖がらないのか。
「……こんなところに来んなよ」
少女の手には、探していたビリヤードの球のキーホルダーがあった。
「あった」
エドは少女の手に触れた。コイツの手、本当に壊れちまいそうだなと思いながら、そっとキーホルダーを受け取った。
「……ありがとよ」
それ以外、気の利いた言葉はなにも思いつかなかった。

「あーあ」
トラックの荷台でいくつかの荷物と共に揺られながら、エドは空を眺めて言った。
「何だよテメェ、いやにご機嫌そうじゃねえか」
「なんかよ、学校に行って楽しそうにしてるガキの気持ちがやっと分かったっていうか」
「ふーん」
「ま、そこにオレは居られないし居るべきじゃないってことも分かったんだけどさ。ははは!」
エドはカラカラと笑った。トラックはガタガタ揺れながら、また別の街に向かって走っていく。

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