「おっ有海、昨日は無事に帰れた?」
「大丈夫だった」
「そっか~。私は大変だったよ。雑草すごい生えてたから、抜くの時間かかったし、腰めっちゃ痛い!」
「実は私もびっくりしたことがあって」
「どしたの」
「こないだ見た人とまた会ったんだけど、幽霊じゃなかった」
「バンドマンではあるんだ?」
「た、多分……?」
有海は目を泳がせた。怜奈は、絶対嘘だろうと思った。
「ふふ。もしかして……運命の出会いみたいな!?」
「違うよ……」
「頑張ってね!応援してるよ」
「違うってば!」
有海は照れた。
……でも、運命の人ではあるのかもしれない。立場の変化と時間を経て再会したわけだし。有海はそう思った。
有海に仕えていた刀剣男士たちは、何人かの新人審神者たちの本丸に、指導係……今風に言えばOJT係として引き継がれた。彼らは真新しい本丸の設備をともに確認したり、新人の審神者によって顕現した新刃たちに簡単な訓練を行ったりなどしていた。人間無骨もまた、任務の傍ら、ある新人審神者に指導を行っている。
任務に出て、路地を歩く人間無骨が持つ端末のチャットアプリに、メッセージが送られてきた。
「首尾はどうだい、之定の同士」
相手は歌仙兼定、有海の本丸の刀剣男士たちのうちの一振り。現在は、人間無骨とは別の本丸で指導を担っている。
「うム。新たな主人ともうまくやっていル」
「それで、任務のほうは」
「主人と出会った。此レらのことは覚えていなかったが、直ぐに馴染んだ」
「そうか。それなら安心だね」
歌仙兼定は笑顔のリアクションを送った。
「それにしても、長物であるきみが真っ先に名乗りをあげた時は驚いたね。不便なこととかはないのかい?」
「電車の中で主人が襲わレていた時は、屋根を開けて奇襲を仕掛けた」
「まるで長可公が城の屋根を剥がして発砲したときのようじゃないか」
「心配はいらない。このまま最後まで主人を守り抜く」
「任務を完遂した暁には、皆で集まって主を歓迎しよう」
「うム。同士も、何か歌を詠ム準備をしておくといい」
……その数分後、人間無骨はふと思い立ったような顔をして、メッセージを付け加えた。
「言葉には気をつけロ、ふらぐが立つ」
「ははは、そうだね。何はともあれ、気をつけて」
歌仙兼定のメッセージにサムズアップのリアクションをつけて、人間無骨は会話を終了した。そして、端末をスリープモードにする。
「ム」
人間無骨はケースをぶん回し、背後から飛びかかってくる影にぶつけた。影は勢いよく吹き飛んだ。注意を向けてみると、周囲には数多の敵の気配がある。幸い、1つ1つはあまり強くないようだ。
「纏めて一突きしてくレル……!」
ケースを降ろすと、中から槍が飛び出した。その槍を力強く掴むと、人間無骨の瞳は紫色に変じた。
「無骨一辺、解放ォ!」
気配は全て追い払った。これでひとまずは大丈夫だろう。
「敵の気配を探知して来たものの、此処は主人の帰り道ではない筈……ム?」
「あ。人間無骨だ」
うわさをすれば主人――有海が姿を現した。
「うム。此レは確かに人間無骨。主人は、此処で何を?」
「すぐそこにたい焼き屋のフードトラックがたまに来るから、買ってきた」
「たい焼き……」
人間無骨が有海の本丸にいたころ、有海は自分から特定の献立を食べたがるような発言はせず、常に周囲に合わせていた。となると、今回も人に合わせて来たのだろうか?
「なんとなくあなたに会いそうな気がしたから。友達におすすめしてもらったの、どうかなって」
有海はたい焼きの包みを渡した。ほんのり温かい。
「うム。感謝すル」
人間無骨は大きく口を開き、たい焼きを頭からほおばった。その様子を見て、有海は温かい気持ちになった。犠牲を払ってでも、こういう時間を守りたかったのかもしれない。