【小説】記憶は無いが、時間はまだ有る

記憶を失った元審神者と、彼女の近侍だった人間無骨の話。平たく言うとむこさにです。

2026-06-06 00:00:00
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数年前の冬。有海の本丸は、ある歴史改変を解決する任務を任されていた。偶然にも出陣先も冬で、そちらは吹雪いて視界が悪かった。戦闘は過酷をきわめた。部隊は行軍中、吹雪が止み視界が開けた先で、奇妙なものを目撃した。

「主、これを見てほしい」
依代を通じて、本丸のモニターにも状況が共有された。歌仙兼定が持っているのは、鳥の羽根のようだ。羽毛は白く、端が紫がかっている。そして……
「大きくない?」
モニターを見る限り、羽根は30センチほどある。この辺りにこんな色の巨大な鳥が棲んでいるのだろうか?
「それにこの辺りは時間遡行軍も全然いねえな……」
その時、静かな足音が部隊の目の前から響く。
「未知の敵かもしれない。下がって」
見上げると、そこには異形の鳥のような何かがいた。
両足は猛禽類のようにたくましいのに脚は鶴のように細長く、すらっとした胴体に巨大な翼、首が長くて、くちばしは鉤のよう。そして羽毛は白と紫。さっきの羽根の持ち主で間違いないだろう。
鳥は首をもたげ、ぎょろりと部隊の6振りを見つめた。目は鮮やかな紫で、首元には赤い紐のようなものが結びつけられていた。
「キシャア!!!!」
「鳴いた!!」
鳥は、部隊の刀剣男士たちをつついたり、ついばんだりしようと動き回る。応戦すべきか判断ができず、皆鞘の状態で鳥の攻撃を受け流していた。くちばしでつまみ上げられそうになっている様子は、一見するとシュールな絵面だ。
「この時代にこんな生物がいたという歴史はない!遡行軍が何かしたか!?」
「いや、どの時代にもいねえだろ!」
「さすがに剣を抜くべきかな?」
「主君、ご判断を!」

「……ル」
「ん」
モニターを見ながら考え事をする有海の耳に、部隊の何者でもない誰かの声が聞こえた。
「……護ル、相棒、の首は、」
「なにか言ってる」
「……いけ、ない、通しては、」
耳を澄ます。これはおそらく、審神者に聞こえる物の声だ。
「……止ま、レ…… 此、レは、」


一方部隊は、相変わらず明確に敵対勢力かわからない鳥のような何かに道を阻まれ、言葉を解しているかもよくわからないために攻めあぐねていた。
「くそっ。もう斬るしかねえか……」
肥前忠広が抜刀しようとする。
「待って!」
「何かわかったのか!」
「斬らないで、指示に従って」
有海は好戦的な隊員を制止しつつ、語る。
「それは生き物じゃない。刀剣男士」
「あ!?バカは休み休み言え!」
「確かに人の形はしていないね。でも……」
「人の形をとっていないだけ」
「なるほど!」
「今から人の形になってもらうようにお願いしてみる」
「うまくいくのか……?」
有海は指示を出す。
「みんな一旦刀から手を離して。歌仙は依代を置いて」
「いいのかい?予想が間違っていたら、君に危害が及ぶかもしれないよ」
歌仙兼定が確認をする。
「大丈夫。安心して……」
歌仙兼定は頷くと、懐に入れていた依代を雪の上に立てた。依代はシンプルな人形か、ゲームの駒のような形をしている。
「掛けまくも畏き刀剣男士なる付喪神。きみの名は、人間無骨。我らに敵意はあらず。その姿を人の身にてあらわし、我らに力を貸したまえ」
祝詞(のようなもの)を唱えると同時に、有海は少量の髪を切り落とした。鳥は立ち止まりそれを聞いていたが、しばらくするとそっと首をもたげた。直後、ふわっと桜の花びらが舞ったかと思うと、そこに一振りの刀剣男士が姿を現していた。
「此レは鬼武蔵の相棒、人間無骨。此処に骨身を得た」
人間無骨は自分の手の平を見つめ、握ったり開いたりする。
「何故あのような指示を?」
「人の姿をとっている方がなにかと都合がいい。異質なものは警戒されやすい」

「それで、このあたりに遡行軍がいないのは」
「此レがぶっ倒した」
「鳥の化け物にボコボコにされる遡行軍かあ……」
その後人間無骨を加えた部隊は作戦地点の周囲を見て回り、危険がないことを確認した。
「よロしく頼ム」
「よろしく」
人間無骨は握手を求めた。歌仙兼定も手を差し出し返し、握った。……むにっ。その手は、とても人間の手のような感触ではなかった。
「ム?」人間無骨はきょとんとしていた。
「……教えることが色々ありそうだね」
歌仙兼定は苦笑いした。

かくして、1558年・美濃での作戦は終了した。帰還した部隊の隊員たちはつかの間の休息をとっている。
「それで、あの祝詞はどこで?」
火鉢の火にあたりながら、歌仙兼定が有海に尋ねる。
「石切丸の真似。あとは雰囲気でやった」
「きみは妙なところで思い切りがいいね……」
「おーい之定!」
「おっと、僕はここで失礼するよ」
和泉守兼定に呼ばれた歌仙兼定は席を外した。そこに、先ほど部隊とともに帰還した人間無骨が現れる。
「ム、主人」
「あ、人間無骨だ。馴染むの早いね」
「御礼をしたく」
人間無骨は火鉢の傍に座った。
「危うく同士討ちになルとこロだった。かたじけない」
「うん。今後は気を付けてね」
有海の言葉に、人間無骨はうなずいた。
「此レは人の骨身というものに、あまり興味がなく」
「名前に人間って入ってるのに、なんだか不思議な感じだね」
有海は人間無骨の手を握った。
「……ほんとだ。人間の手じゃないみたい」
人間無骨は、有海の手をあれこれ触ってみる。
「此レが主人の手」
「あまり参考にならないかも」
「此レは、此レと共に戦った相棒の手ぐらいしか知らない。手というものは……難しい」
「手って難しいよね。でも、顔の次ぐらいには表情が豊かだなって思う」
「手にも表情があルのか」
「あるよ」
「其レにしては、顔がついていル訳ではないように見えルが」
人間無骨は、有海の手のひらと手の甲を見る。
「そういうことじゃないよ」
「成ル程」
「……まあ、ゆっくり勉強すればいいと思うよ」
有海はそっと両手で人間無骨の手を握った。そこに歌仙兼定と和泉守兼定が戻ってくる。
「わあ、いきなり仲睦まじいね」
「邪魔したか?」
2人は人間無骨たちの様子を見ていた。
「そうでもない」
有海は言う。
「主人と仲睦まじいのは良くないことなのか」人間無骨がきょとんとした顔をした。
「……まあ、それも追々説明しようかな」
有海がそう言うと、面々は笑った。

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